カレーのナンとゆかぽん(7/31)
今僕はインドカレー屋で夕食を食べている。一緒に食べてるのは、ゆかぽん。
「ナンって食べてもなくならないねー」
ゆかぽんは大学時代の友達でいつも彼氏と一緒にいるような子だった。連れている彼氏も忘れもしない。ゆかぽんの顔を見ると脳裏に彼の顔が思い浮かぶ。いや、間違えた。カレーのナンを見ると彼の顔が思い浮かぶ。彼は顔の形がナンに似ていて、顎が鋭かった。そして、決まって正露丸の匂いがした。何故だか分からないが、彼の後ろを歩くとあの独特な匂いが包み込む。肩にギリギリ付いている長い髪の毛。果物いっぱいのアロハシャツ。丸メガネにメッセンジャー掲げて、腕にG-SHOCK。極め付けは、美容師に2時間かけて作るツーブロック。何処と無く胡散臭さで充満している彼は、彼女の腰に手を当てて、お気に入りのカフェ、ベローチェへと入っていくのだった。
キャラの渋滞みたいな彼に対して嬉しそうに微笑んでいるゆかぽんを見るだけで、僕は今日も安心する。そんな彼から最近、プロポーズを受けたと聞いた。さらに顔の頬が緩んでいてこいつはどこまで幸せになるつもりなんだろうと思った。
「見てみて、今度式場見学するの」
あんなに胡散臭いのに。長い髪にでも巻かれたのだろうか。
「どこが好きなん」
「顔」
「どこで遊ぶの」
「家」
「なんて呼んでるの」
「マサ」
2文字縛りで返せと言ってないが、この有様である。会話にテンポが出てきてしまった。この前まで彼氏に泣かされていたのにな。うじうじしていたゆかぽんはもうどこにもいなかった。
「ナンおかわりくださーい」
ナンが無限になくなろうが関係ない。こちらの執着でなくせばいいのだ。
「てか全然ナン減ってなくない?早く食べなよ」
さっきから俺に厳しくない?