これみよがし日記

感情の整理箱

アイスになれない僕たちは。

 夏休みがきた。外はジメジメするし、中は蒸し暑くて、沸騰寸前がいつもの夏だ。お母さんが怠そうに台所でブドウ味の棒アイスを食べているのも、夏の風物詩だ。しかもお母さんが食べ過ぎて、僕の分のアイスが残ってないオチ付きである。そんな夏は学校が終わったらすぐ帰ることにしている。僕は暑さで頭がおかしくなっている連中を横に素早く帰る。絡んだら「アイス食べたい」という呪文をかけられ、行きたくもないポップでキュートな、食べるには派手すぎるアイス屋さんに並ばされるからね。

家に帰ると、手荒いうがいをしっかりとやった後、クーラーの外接機が暴れるまで部屋の温度を下げる。急激に下げるから、クーラーはいつもご機嫌斜めだ。知らんけど。ガンガンに冷えた部屋は天国というにはおこがましいくらいに楽園。僕にとって最高の砂浜ビーチといったところだろうか。誰も聞いてないからって鼻歌まで歌う始末である。

「ひろき、友達きたよ」

楽しいひと時はそう長くは続かない。友達がきたということは、僕を外へ導き出そうとする悪人どもが待機していることだ。状況を察すると急いで窓辺に向かう。敵がすぐそばまできているか確認せねばならない。勇気を出して部屋の窓を数ミリ開けようと外を見るも、悪人が騒ぎ立てないか不安で、開けられない。カーテンの音も聞こえているのではないかとヒヤヒヤする。そーっと忍者の手つきでカーテンを元に戻し、壁にもたれ掛かりながらズルズルと小さくなる。

「ひろき?あんたいるの?」

まずい。このままでは母がこの無法地帯に入ってきてしまうでないか。ガンガンに冷え切った部屋を守れない悲しみが込み上げてくるも、諦めないのが僕だ。上は大火事、下は洪水みたいな地獄って本当にあるんだと思ったけど、僕のいるところは天国。そう口に出して唱えるも、母の足音が大きくなる。足音とともにパニックになってしまった僕は目の前が真っ暗になって突っ立っていた。

「俺、アイス勝手なるわ」

たったの1秒だったが、あんなに長く感じたのは久しぶりだった。「俺アイス買ってくるわ」の一言が交通事故に遭い、僕が勝手にアイスに変身してしまった。こんなつもりじゃなかったのに。母さんの為に、慣れないお使いに行ってこようと思ったのに。無念で膨らんでいると母が「何言ってんの?下はよ行き」と俺のアイス変身宣言をなかったことにしてきた。これだから大人は、と思いながら完全敗北のランナーとしてウィンニングランならぬ、敗北ランで颯爽とホームへ戻っていく。

あーあ、俺アイスにすらなれなかったな。これだから夏休みは嫌なんだ。最高の幕開けである。

 

今週のお題「夏休み」